なおこさんのごはんは、おいしい。
私の知るかぎり、家ごはんのなかでは、一番。
なおこさんのごはんを最初に食べたのは、12年前のニューヨークだった。
なおこさんは、高校の友人の母(大学教授)の教え子で、
短期的にがーっと稼いでは
海外を何ヶ月も旅行するというなんとも羨ましい生活を送っていた。
私が留学中の友人宅(母同居)に滞在していたとき
ちょうど、なおこさんもそのニューヨークのマンションに居候していて
そこで出会ったのだった。
マンションのダイニングで、4人で朝食を食べていたとき、
ふと、話題が過去にとった賞歴の話になった。
私を除く他の3人はスポーツやらなんやら
輝かしい賞を当たり前のようにとっていて(だからそういう話題になるのだが)
ふと、私は自分には何もないことに気づいて口をつぐんでいた。
とてもみじめな気持ちで、ガリガリとベーグルにバターを塗った。
暗い感じで「私には何にもないし」とあえて言ったような気もする。
ああ、小さいなあ、17歳のわたし。
今回、なおこさんのごはんをみんなでわいわい食べているときに
引け目を感じなくなっていることに気づいた。
相変わらず賞歴は何もないけれど
ライターという仕事をしているおかげで
こういった人が集まる場で話すネタには事欠かない。
単純に忙しくなったのだ、とも思う。
「私には何もない」と後ろを向いているひまがあったら、働くよ。
なおこさんのごはんは相変わらずおいしくて、
「リス子ちゃん」と呼んでくれるあだ名も高校生から変わってない。
でも、あの頃とは違って少しずつ人生の基盤が私のなかにできてきているんだなと思った。
女子がよくもっている「何もないコンプレックス」は
仕事で自信がつきました!なんてまとめで解決できるようなものじゃないけれど
大人になるとうすれていくものなのか、
としみじみしたアラサーの午後だった。